「リゴレット」に関する想い出 


「リゴレット」/ ヴェルディ作曲 もわたしの大好きなオペラのひとつ。ヴェルディのオペラはほとんど全部、大好きなのですが、「リゴレット」はその素晴らしい音楽と共に、個人的な想い出がいくつかあって、忘れられない作品となっています。音大に通うようになって、二期会の公演などで、「リゴレット」は聴く機会がありました。栗林義信さんの大きな立派な声のリゴレットは印象に残っていますが、テノールは誰だったのかは記憶にありません。 

何といっても強烈な想い出は、1970年代、当時日の出の勢いだったパバロッティが NHK イタリアオペラの招聘でマントヴァ公爵を歌った時のことです。彼の体躯の偉大さにも驚きましたが、その身体から出てくる声の素晴らしかったこと。ダイヤモンドのようにキラキラと輝いてながらピーンと芯のある、今までに聴いたことのないテノールでした。有名な「女心の歌」を歌い終わった時に、ある音大生が客席から舞台に飛びだしていって、パバロッティに抱きついてしまった事件に居合わせましたが、彼のその心境も十分に理解できるものでした。(^_^;) 当然のことにテレビ録画をしていましたから、彼はその後、彼の通う音楽大学長を通して、NHK からキツイお叱りを受けたようです。

また、音楽大学学部の時の試験に、マントヴァ公爵が第2幕で歌うアリア "Parmi vederle lagrime ....." を選んだのも懐かしいし、マリア・カラスと一緒に来日したテノールのジュゼッペ・ディ・ステファノが母校を訪れて公開レッスンをした時に、彼の前でこのアリアを歌い、大いに褒められたのも遠い嬉しい想い出。

この時には、イタリアに留学していた経験を持つ、ある声楽科の先生が通訳を務めたのですが、公開レッスン修了後、美校の若桑みどり先生がわざわざわたしの所に来てくれて「今日の通訳の先生はきちんと通訳していなかったので腹がたったわ。ステファノは、あなたの声がまだ小さいということは言ったけれど、その他は最大限に褒めていたのよ!これからの前途ある人に対して何ということでしょう」と憤慨してくれました。(^_^) 

学部の時に、わたしは若桑先生にはイタリア語と美術史を教えていただいていたのです。イタリア語の時間にはいつも最前列に座って講義を聴いていたので、先生は、わたしがイタリア語が堪能だと思っていたフシがあります。種明かしをすると、同級生の女子学生にとても良くイタリア語が出来た子がいて、その子の隣に座っているといろいろと都合が良かっただけのことでしたが。(^_^;) キャンパスで行き会った時などは晴れやかに「Buon Giorno Signor .....!] とよくイタリア語で挨拶されました。

しかし「リゴレット」に関する想い出で一番大事にしているのは、Nationaltheaterで Alfred Kraus がマントヴァ公爵を歌った時に、彼のすぐ側にいて同じ時間と空間を共有できたことです。想像していたよりも胸板の厚い、端正な舞台姿、何よりも彼の高音域の素晴らしさに身体が痺れるようでした。死の直前まで素晴らしいフォームを保ったテノール歌手でしたが、亡くなってしまって残念です。さあ、今度の「リゴレット」はどんな想い出を残してくれるのか。 

Posted: 2004年10月12日 (火) at 21:27 




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