Wunderlich Privat 


つい先頃、同僚が貸してくれた表記のCD を聴いた。
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こんなものがあったとは驚きである。Fritz Wunderlich の素晴らしさを改めて発見した思い。

 

これまでにも何度か書いているが Fritz Wnderlich はわたしのお手本とするテノールである。残念がら事故により36歳という若さ、テノールとしては絶頂期に夭折した。

彼のCDは現在でもドイツではコンスタントな売り上げを記録しているのではないだろうか。早く亡くなったにしては、幸運なことに彼の録音は少なくはない。わたしはそのほとんどを持っていると思うのだが、今になってこの様な音源が出てきたのは驚きだった。これは彼が自宅で練習用にと録音していたテープ(1962年から66年にかけて)を彼の奥さんが大事に保管しておいたものらしい。現代の技術を持って、音質面で幾分かの修正はなされているに違いないが、その音質の生々しさは素晴らしいものがある。

わたしが始めてオープンリールのテープデッキ(ティアック)を手に入れたのは音大生の1974年頃のことだったが、Fritz Wnderlich はそれよりも10年ほど前に所持してバリバリ使っていたという事実には驚かされる。彼はオーディオ・マニアでもあったのだろうか。

インターネットでこのCDに関する情報を漁ってみると、彼はテープデッキを家庭での練習用に使っていて、当然のことながら同じテープを何度も繰り返して使っていたとのこと。あの当時のテープというのはずいぶん高価なものだったことは想像できるけれど、それにしてもダビングによって彼みずからが消去してしまった記録が惜しい。

このCDには彼の会話も入っている。いかにも彼らしい高いポジションでの話し声で、話す声そのものがもう音楽になってしまっているのが分かる。彼を評して「自然な、持って生まれた才能」ということがよく書かれるが、彼の会話を聞いていると納得できるものがある。それにしても彼の歌における発音の明瞭さは素晴らしい。Fischer-Dieskau もデクションの良さでは特筆すべき存在だけれど、Wnderlich は単に明瞭さだけではなくそれがとても自然なのである。自然だから聴いている方も気持ちよくなれる。

最後の曲 "Crude furie degl'orridi abissi"(地獄の残酷な女神め)ー(ヘンデル作曲)などを聴いてみると、彼にしてはまだ完成されていない練習途上のアリアだということが伺われて興味深い。そして何よりも「歌うことが楽しくて仕方がない」という彼のほとばしるような気迫が感じられるのが素晴らしい。この音源をこれまで保管しておいてくれた奥様、そしてそれを公開してくれたドイツ・グラモフォンに感謝。 

Posted: 2006年07月16日 (日) at 17:39 




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