姫椿 / 浅田次郎著(文春文庫) 


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これも「ハイジ文庫」の中の一冊です。この著者の本はまだ数冊しか読んでいない。今回のは本棚を眺めていてふと目にとまって、オッ、読んでみようと手に取った。じつは、この表題を「「椿姫」」と間違えたのです。この作家が「「椿姫」」をどういう風に料理するのだろうというのがその時の関心でした。しばらくしてからそれが「姫椿」であると分かって自分のうかつさを笑いました。 

この本は8つの短編から構成されている。記録として書いておきたい。1.シェ(字が出ない)2.姫椿 3.再会 4.マダムの咽仏 5.トラブル・メーカー 6.オリンポスの聖女 7.零下の災厄 8.永遠の緑 の8編。
以前にも書いたことがあるけれど、わたしはこれまで短編小説が余り好きではなかった。短編小説って難しいと思う。短い物語の中に作家の書きたいこと凝縮して詰め込み、読者にインパクトを与えなくてはならないのだから。わたしがこれまで短編小説が好きでなかったのは、往々にして作者の独りよがりの独白のようなものが多かったためかもしれない。

しかし、この作家の短編は面白い。読んでいる間に感情移入してしまう。文章がうまいのかなと思ったけれど、それだけじゃなく、文章の裏に著者の温かみが感じられるせいだろう。今回の日本帰国でわたしは恩師の卒寿記念を祝う会で歌わせて頂くのだけれど、次の文章をその先生に重ねていた。70歳を90歳と置き換えればそのまま恩師への祝福の言葉になってしまう。
マダムは完璧な女だった。
気高く、美しく話す言葉も挙動動作のいちいちまでも、まったく非の打ちどころがなかった。
奔放さと真摯さが、きちんと調和していた。七十歳という年齢は少しも魅力を脅かすことなく、時はうつろうのではなく積み上がっていくものだと、周囲の人々は皆思い知らされた。(マダムの喉仏・P117より)

この8つの短編の中でわたしが一番好きなのは最後の「永遠の緑」。競馬好きの大学教授がひょうひょうとした風情でとても良く書かれている。(2005年8月22日読了) 

Posted: 2005年08月25日 (木) at 09:08 




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