霧の橋 / 乙川優三郎著(講談社文庫) 


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先に読んだ「蔓の端々」に続いての乙川優三郎作品。わたしの本棚にこの作者の本が三冊並んでいる。今読まなくてはこのあと読もうとする時があるかどうか、実は余り自信がなかった。「蔓の端々」はやはりわたしには暗く重かったのだ。しかし、勢いで読んでみた。これもまた「邂逅」である。この作品は第7回時代小説大賞受賞作。「ハイジ文庫」より。 

この本も時代背景は武士の社会である。「蔓の端々」と同じく「仇討ち」というテーマが先ずあって、主人公が目出度く本懐を果たしたものの帰参すべき藩には自分の居場所が無くなった。ふとした縁から武士を捨て「紅屋」という紅を扱う店の主人になった男の商人としての戦いが描かれている。
今回は「暗さ」からは幾分解放されて、躊躇なく最後まで読み通すことが出来た。ただ、「蔓の端々」を読んだときにも感じたことだが、女性の描写がわたしには物足りなかった。「女性の心の中はここに書かれているものとは少し違うのでは?」という違和感がある。著者は1953年生まれとわたしより6歳も若いからこの点に関してはわたしの方が時代錯誤なのかも知れない。夫婦の愛のあり方の描写でも、どことなく夫と妻の感情が平行線を辿っているような気がする。最後の締めくくり方はキリッとした余韻を残して、清々しい空気感を感じた。
(2006年1月読了) 

Posted: 2006年02月20日 (月) at 16:20 




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