生きる / 乙川優三郎著(文藝春秋)この本は3つの短編から成っていて「生きる」というのはその最初に出てくる短編。そのあとに「安穏河原」「早梅記」と続く。確かにこの3編とも読んだあとはしっかりとした手応えとどこにも手抜きのない緻密な構成を感じる。しかし、やはり全体の調子は暗い。
乙川優三郎氏は直木賞受賞時のインタビューで次のように述べているそうだ。 わたしは小説を書こうとするとき、人間の苦悩なしに物語を書いても意味がないと思ってしまうタイプなんですね。人間をもっと深く掘り下げたい、それが物語の暗さに繋がってしまいます。しかし、暗いからこそ明かりが見えるということもあるわけですから。最後まで暗く沈んだままの小説ではないはずですが、技術が上達すれば、同じ苦しみをもう少し明るい形で書けるようになると思いますので、それも今後の課題でしょうか 人間の苦悩=暗い、というのは当たり前のことで、その暗さを読者に救いのある形で提供できるようになれば、ということだろうか。それはこの作者にわたしが願う未来でもある。読んだあとうちひしがれた暗い気分に覆われる本を、たとえそれが文学的に価値のある本だと言われても、わたしは読みたくない。 (2006年1月読了) Posted: 2006年02月20日 (月) at 16:49
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