平城山を超えた女 / 内田康夫著(講談社文庫) 


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わたしのハイジ文庫では最後の内田康夫作品となった。これまで一気呵成に「浅見光彦シリーズ」を読み続けてきたから、このへんで一段落もいいかな。彼の作品はまだまだ沢山あるようだからいつかまた、どこかで彼の作品に出会えるときが来るだろう。 

書棚に並んだ数冊の「浅見光彦シリーズ」の中で最後までこの本を残したのは題名に愛着を感じたから。この本の最初にも書かれているが「平城山」という日本歌曲がわたしは大好きで今でも良く歌う。「人恋うは かなしきものと 平城山に もとほりきつつ たえがたかりき……」(しかし、むかし、女学校などで愛唱された歌、という紹介はないでしょう、内田さん(^_^;))という歌詞も素敵だが典型的な日本の旋律で琴の調べを思わせるピアノ伴奏も秀逸。北見志保子 作詩/平井康三郎 作曲(1935年、昭和10年)によるもので平井康三郎、24歳の時の作品である。

そういうわけだから「平城山」という字を見ると、この歌を思い、そして何度か訪れた奈良の空気を連想してしまう。この本はその辺のことも良く書けていると思う。でもわたしは「日吉館」という由緒ある宿のことは知らなかった。ここに泊まった人達の名前を列記してあったりして内田康夫氏の創作ではないと思うのだが。

物語は新薬師寺にあったが、盗まれたという香薬師仏をテーマに展開していく。例によって最後は「お縄頂戴」という形では終わらずほのかな希望を抱かせるのだが、そうなるだろうと思っていてもやはり最後まで面白く読み通してしまった。

わたしが見て回ったお寺で印象に残っているのはやはり西の京といわれるところにある唐招提寺と、そこからごく近いところにある薬師寺である。わたしが18歳の頃に訪れた時には基礎の石組しか残っていなかった薬師寺の三重の塔の史跡に、次に訪れたときは忽然と極彩色の新しい塔が建っていたことは強烈な想い出となっている。また、この本に出てくる浄瑠璃寺というお寺にも興味を覚えて、次回は是非行ってみたいなぁとは思うが、さて、いつになるだろう。
(2006年3月23日読了) 

Posted: 2006年03月25日 (土) at 14:51 




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