隠密同心・柏木平右衛門(一刀流秘剣水虎宝暦事始め)/ 師岡晋一著(文芸社) 


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2006年5月15日に初版第1刷発行という出来たばかりの本。今、 Münchenを訪れている知人がわざわざ日本から持ってきてくれた本。題名からしてワクワクと面白そうなので早速読み始めた。この著者はわたしの知人が企画奔走して大成功に終わったコンサート「おかえりなさい喜波貞子さん」のチラシ、プログラム、絵はがきを作ってくださった方だそうだ。 

読み始めてまず始めに感じたのは、隅々まで神経が行き届いてとても丁寧に書かれているということだった。流行作家が書いた本というのは時として手抜きを感じるところがあるが、そんな点はまったく感じられない。そして面白い!わたしはグイグイと引き込まれてしまった。剣の立ち会いの場面も緊迫感に溢れていて著者自身が剣道をやっている人かなと思ったりする。

この本、読んでいて楽しいのはその緊迫感の間奏曲といった趣で、おいしそうな食べ物の描写が出てくるのだ。食いしん坊のわたしは読んでいて「うまそう!」と喉がゴクッと鳴ってしまう部分もあった。目にとまった食い物に関する描写を抜き書きしてみた。(^_^;)
・濃いめの味噌汁には焼いた茄子が入れてあり、そこに山椒の粉がふりかけてある。(P.164)
・早々と出された焼きおにぎりの香りに、皆の空腹が刺激された。にぎりめしの片面には、味噌がタップリ塗られていた。その味噌には、山椒や唐芥子、それに胡麻などの薬味が混ぜられている。(P.147)
・蛸は軽く茹で、ぶつ切りにして薄く味噌を塗り、串に刺してそれを強火でさっと炙り、最後に煎った黒胡麻をたっぷりと表面にまぶしていた。蛸は生でも旨いが、表面だけは炙りたい。炙ることで蛸の持つ香りをさらに引き出せる。酒との相性は言うまでもない。(P.184)

もう一つ気がついたことは、この著者は漢字に対しての繊細な使い分けに一家言ある方らしい。懲りすぎてはいないのだけれど、エッ、と思うような漢字を当てているところが数カ所有った。こういうところは大いにこだわった方が良い。

あらすじを書くのは控えるが、やはり単行本というのはそれなりの良さがあるものだということを今回感じた。一言で言ってしまえば「精神の贅沢」ということだろうか。わたしなどはケチだから文庫本でいいや、と思ってしまうが、たまにこの本のように丁寧に作られた単行本を読んで感じる心の中のゆとりを、忘れてしまってはいけないなと反省。

最後に。直前まで池波正太郎の本を数冊続けて読んでいたせいか、それに近いものを感じた。行間にもっとふんわりとした表情が漂うようになれば池波正太郎の世界を引き継ぐ小説家になるかも知れない。こんなことを書いたら著者に怒られるかも知れないが、まだずいぶんお若い(40歳前)ので期待を込めて書いてみる。(-_-;)
(2006年6月3日読了) 

Posted: 2006年06月03日 (土) at 15:21 




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