ちょっとピンぼけ / ロバート・キャパ著 川添浩史/井上清一訳 (文春文庫) 



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この本も先の「オペラへの招待」と同じく、ミュンヘンの一日本人学究から分けていただいた本の中の一冊。原題は "SLIGHTLY OUT OF FOCUS" 。人並みに写真にも興味のあるわたしはロバート・キャパの名前は聞き知っていたし、彼の写した戦争の写真も数枚は見たことがあり、そして、ベトナム戦争の時に地雷を踏んで亡くなったことぐらいは知っていた。つい2週間前には、今年が「D-Day 60周年記念」とあってドイツでも大々的に、新聞、雑誌、テレビなどでこれに関するものが報道されていた。そんな時にこの本を読むことになったのもなにかの因縁かも知れない。 

読後感としては、当然のことだが彼の写真の説得力とは次元の違うものだった。ただ、次の部分(P.168)にはドキッとしてしまった。命をかけて撮した写真をおおかた失ってしまって、どんなにか悔しかっただろう。この部分をサラリと書いているだけにかえってその悔しさが浮き彫りにされている。
一週間後、わたしは''イージー・レッド"イージー・レッドの海岸でわたしが撮った写真が、上陸作戦についての最も優れたものだったということを知った。しかし、残念ながら暗室の助手は昂奮のあまり、ネガを乾かす際、加熱のためにフィルムのエマルジョン(乳剤)を溶かして、ロンドン事務所の連中の目の前ですべてをだいなしにしてしまった。106枚写したわたしの写真の中で救われたのは、たった8枚きりだった。

この文庫本の巻頭にジョン・スタインベックが「キャパが遺したもの」という文を寄せているし、本文の中にはあのアーネスト・ヘミングウェイも登場してくる。そうか、彼たちは皆、同時代の同じ場所の空気を吸っていた人達だったんだ、と改めて気がついた。戦争というのは自分の廻りに起こって欲しくはないし、憎むべきものだけれど、そういう極限の時でないと生まれない、強烈な個性溢れる人たちを排出する環境でもあるということは確かなようだ。(2004年6月16日読了) 

Posted: 2004年06月16日 (水) at 16:21 




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