密葬 / 森村誠一著(徳間文庫) 



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推理小説は大好きだが、どちらかというと長編が好き。短編ものはどうもサッパリし過ぎていて読後に満足感が残らないものが多い。この本はその短編集で「暗渠の牧場」「密葬」「たった一人の「紅白」」「喪中欠礼」の4本から成っている。森村誠一という作家のものは彼を世に出した「高層の死角」あたりからほとんどの作品は読んでいた。しかし当然のことながらドイツに住んでからの過去25年間に出たものはあまり読んでいない。わたしにとっては久しぶりの森村誠一作品である。 

読後案は「やはり短編、されど短編」といった感じだったが、森村作品にたびたび見られる、強引な人物設定がそれほどでもなくて作品の中に容易に滑り込むことが出来た。わたしには最後の「喪中欠礼」が印象に残った。面白かったのは作者自身による後書き。森村氏は「名探偵」と「シリーズもの」を好まないそうだが、その理由を次のように書いている。(P.246 より引用)
ある強烈な登場人物を設定してしまえば、その魅力で読ませるので、ある意味では楽である。同一人物を場所だけ変えて(時には同じ場所で)活躍させていれば、各編毎に別の作品世界を創造、工夫する必要がなくなる。だが推理小説は処女性を尊重する。一作品毎に全作の影響を脱したところに創作するのが理想である。
登場人物が異なるのは勿論であるが、その職業、性格、特徴、所信などを変えて、全く別の舞台で活動をさせたい。特に短編集の場合、読者をして多彩な花のむらがり咲く花園へ踏み行ったような気分にさせたいと願っている。

なるほど、短編に対する森村氏のこだわりが良く感じられて好感を持った。

しかし、一読者として考えてみると、わたしはどうやら探偵もの、シリーズものも大好きである。 シャーロック・ホームズ、エルキュール・ポアロ、エラリー・クイーン、それにわたしが付け加えるのなら、神津恭介、新しくは浅見光彦 などは読む前からワクワクするものを感じる。節操がない推理小説愛好家なのかもしれない。でも「それでもいいんじゃないの」と開き直っている。どんな形でも本を読むことは楽しいこと。(2004年9月6日読了) 

Posted: 2004年09月09日 (木) at 11:52 




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