ベルリン飛行指令 / 佐々木 譲著(新潮文庫) 


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勇士は還らずに続く、わたしにとっては佐々木譲氏の2冊目の本。期待して読み始めた。この本は冒険譚というジャンルに入るのだそうだが、それだけではない。やはり紙面の裏には綿密な取材が感じ取れるし、読むものを納得させるだけの重みがある。 

中でも最後の海軍大将だった井上成美(この本の中では中将)が登場する場面がわたしには印象的だった。5年前に日本に帰国して急性肝炎にかかり、姉の家で静養していた時に読んだのが「井上成美」阿川弘之著(新潮社)だった。彼に、先の大戦の無謀さ、馬鹿らしさを語らせているところを読んで、5年前の夏を思い出した。

それと、うまく描けているなと思ったのはイラクの飛行場に立ち寄った時のフセイン大佐との絡み。アラブ人の押しの強さ、エゴイスティックな面が生き生きと書かれている。この部分ではわたし自身が安藤大尉に憑依してしまったかのように感じた。しかしこの本の圧巻はエピローグで書かれている次の文章だろう。日本から苦労して運ばれた零戦闘機をテストしたドイツ軍のアドルフ・ガーランド少佐の報告である。
当該機はメッサーシュミット Bf109D,E シリーズに比して、航続性能、空戦性能に見るべきものあるも、速度で互角、上昇速度に劣る。急降下性能、高空飛行性能についてはとうてい Bf109D,E シリーズの敵ではない。装甲の貧弱さは信じがたいほどであり、わが軍連絡機の水準以下である。結論として当該機はドイツ空軍正式戦闘機には不適と判断せざるを得ない。

イギリス軍のスピットファイアーと比較して、その劣勢が顕著だったメッサーシュミットにも劣ると書かれたこの報告が、わたし自身が持っていた零戦闘機像を木っ端みじんに砕いてしまった。最初は「何を!」と思ったのだが、それが真実だったのだろう。この一事を見ても、先の戦争は負けるべくして負けた戦争。してはいけない戦争だったということが又ひとつの事例をあげて証明された。(2004年11月23日読了) 

Posted: 2004年11月23日 (火) at 19:03 




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