« 初雪 | Main | 蝉しぐれ / 藤沢周平著(文春文庫) »

2006年11月02日

レベッカへの鍵 / ケン・フォレット著ー矢野浩三郎訳(集英社)

imageずいぶん昔に一度読んだような記憶がある。翻訳小説というのはあまり読まないのだが、パラパラとページをめくってみるとサラッと読めそうな気がして JPAN CLUB からお借りしてきた。「レベッカへの鍵」というタイトルはどこかワクワクさせる響きがある。翻訳小説をあまり読まないと書いたのは、訳者によってオリジナルの小説が随分と曲げられてしまうような気がするから。

しかし今回の矢野浩三郎氏の訳はこなれていて日本人の小説を読むのと同じ調子でまったく違和感がなかった。しかし、相変わらずカタカナで書かれた登場人物の一覧が頭の中に入ってくるまでにはちょっと時間がかかる。

内容は第二次世界大戦のアフリカ先々におけるドイツ・スパイとイギリス諜報部員の争いである。冒頭で、はるか彼方の砂漠をたった1人で横断してくるドイツ軍スパイを描いた部分はなかなか素晴らしく、これからの波瀾万丈の展開を予想させた。

しかし、エジプトに潜入してからのイギリス諜報部員との丁々発止の駆け引きの部分には少し食い足りないものを感じた。ベリーダンサーの元恋人が登場したり、イギリス諜報部員に好意を寄せる女性が出てくるあたりからちょっと温度が下がってきたような気がする。結構エロチックな場面を登場させたりしているのだが、わたしにはそれが少し邪魔に思えた。エロチックな描写は好きな方なのだが、ここはもう少し暗号解読に関する捻りが欲しかった。

最後のほうは追いつ追われつの、冒険映画を見ているかのような場面が続くのだが、ここもあまり緊迫感が感じられない。読み終わってみれば消化不良の感が残る。結局、この本に寄せるわたしの期待が「暗号解読」の方に偏っていたからだろう。「それなら、違う本を読め」と言われればそれまでであるが、だったらもう少し違った標題を付けて欲しい、と言い返そう。


(2006年10月中頃の読了)