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2007年11月13日

さまよう霧の恋歌 上・下 / 高橋 治著(新潮社)

image image このところ高橋 治氏の小説を読むことが続いている。夏休みに入る前に読んでいた「星の衣」が印象的だった。それで日本に帰ったとき、故郷の Book Off で高橋 治氏の本を探し、見つけたこの本を購入してドイツまで持ってきたのである。

この本は最初の一ページ目からわたしを引きつけた。すぐに著者の世界に入っていける。最初のほうはちょっとくどいかなと思われるほどの情景描写があって、たぶん心身の調子が悪いときなどは彼の描く情景を追いきれないかもしれないが、今回はそれをゆったり楽しむ余裕があった。

この物語の底辺には、数百年前の越前の一向一揆という歴史的事実の伏線を敷いておいて、そこへ記憶をなくした美しい品格のある女性を登場させる。その女性に「霧姫伝説」ともいうべき物語を絡ませ、さらに、武部、秋乃という重要なパートナー達を配している。この構成は見事というか、読むものにわかりやすい大きな指針を与えてくれる。その他にも様々な登場人物が出てくるのだが、なんといってもこの三人の描き方が秀逸。

また、下巻の重要な場面で「琵琶」という楽器が出てくる。数年前に購入した「薩摩琵琶」(上田純子)というCDを持っているのを思いだしてそれを引っ張り出してみたりした。買ったときに一度聴いただけであったが、久し振りに音を出してみると物語の中の描写と重なってなかなか良いものである。文字から聴覚に派生していくこれも読書の面白さかな。(^_^)

読み終わったのは昨夜の午前1時半頃。この長い物語はわたしの希望していた展開で進み、そして終わるのだが読んだあとにもしみじみとした感慨があった。しかし、文庫本特有のあとがき(解説)を読んだのが失敗。書いているのが水谷良重氏であって、その書き出しが「オサムチャン」…、という「呼びかけ文」で始まっているのだ。読み終わったあとのしっとりとした深夜の空気が一編に吹き飛んでしまった。(-_-;)

現在はどうか知らないけれど、その当時、わたしこの女優さんが余り好きではなかったのである。この人を考えると、その昔 NHK テレビで毎週放送していた「若い季節」という番組がすぐに頭に浮かんでくる。確かあの中に出ていて「下手な人だなぁ、それに美しくもないし」と思っていたのだった。今回の解説文も昔のそのイメージ通りだったから、読んだあと凄くまずいデザートを食べてしまったような気になった。

そのあと眠りにつくまで「若い季節」のことが頭から離れずに大変困った。どうにも気になってそれから起きだして Wikipedia で検索したりして。(-_-;) そのページで見る「若い季節」に出た俳優さん達のしかし、なんと豪華なことだろう。その時の淡路恵子さんの演技と表情がわたしの記憶の中では一番光っていた。あ〜ぁ、「読書感想文」を書こうと思ったのになんだか妙な終わり方になってしまった。(汗)

(2007年11月12日未明読了)