ARTE で放映されたテレビを観ての感想である。
BESETZUNG
Dirigent: Daniele Gatti
Fernsehregie: Agnes Méth
Inszenierung: Alvis Hermanis
Komponist: Giuseppe Verdi
Orchester: Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor Wiener Philharmoniker
Anna Netrebko (Leonora)
Plácido Domingo (Graf Luna)
Azucena (Marie-Nicole Lemieux)
Francesco Meli (Manrico)
Riccardo Zanellato (Ferrando)
Diana Haller (Ines)
結局最後まで観てしまったが、 Anna Netrebko が絶好調でこれまで観てきた中でも最高の出来。声の自由度が増し、安定していて、声が肉体にまとわりつかず、肉体から快く浮遊していた。その歌唱には凄みさえ感じられて、この快感はミレッラ・フレーニの好調の時以来久し振りに味わうもの。よく調整された素晴らしいオーディオ装置でふたつのスピーカーの間の空間にポット声が定位する感じにも似ている。
一方、バリトン役に転じたドミンゴがこの公演のもう一つの目玉なのだろうが、わたしには辛かった。ヴェルディのオペラでバリトンが聴かせる一番輝くべき声域がバリトンのそれではなかったのと、視覚的にはテレビ画像の鮮明さが彼の肉体的老いをしっかりと映し出していたせいだ。今回の彼の試みは失敗ではないけれども成功でもなかったとわたしは思う。
カルロス・クライバーの指揮で Otello を歌ったときのドミンゴの歌唱と姿と比較するのは間違っているけれど、ともするとあの時のドミンゴが思い出されてしまう。
マンリーコを歌った Francesco Meli は高水準の歌唱で、舞台上のぎごちなさと歌ってるときの表情は若いときのカレーラスを思い出させてくれた。この人を生で聴いたことは無いが機会があれば一度聴いてみたい。
ガッティの指揮はかなり速いテンポでたたみかける部分が目立った。そのテンポでもネトレプコの歌唱は崩れることがなくお見事。その他のソリスト陣も立派だった。ただ、歌手達が美術館員として現代の服装をしているとずいぶん太って見えてしまう。発達したテレビの映像は演奏者に酷だ。
演出と舞台は美術館内部と歴史的な舞台とを、壁に掛かっている名画を橋渡しに交錯させて違和感を持たせないようなアイデアだった。その意図は理解できるがわたしにはやはり無理があるように思える。お金が掛かっていると思われる美しい舞台だったことは確かなのだが。