« 本当に4本の歯を一気に抜いた | Main | 背いて故郷 / 志水辰夫著(新潮文庫) »

2006年12月19日

カディスの赤い星 上・下 / 逢坂 剛著(講談社文庫)

image 多分この作家の本をブログに紹介するのは初めてだと思う。もしかするとわたしがこの作家の本を読むのも最初かも知れない。Japan Club からお借りしてきた本。表紙を見ただけでスペインを舞台にし、そしてフラメンコをテーマにした物語であることがわかる。

image この本の面白さは冒険小説的なストーリーが快適なテンポで前へ前へと進んでいくことと、全編にわたって展開される会話の気障さ加減だろうか。(汗) わたしには古典的なハードボイルド小説のように思える。

読み始めてしばらくはこの適当なノリの会話が面白くて引き込まれていった。わたしの知らない分野における会話が続いている間は真実味も感じられていたのだが、ある会話でオペラ「セビリアの理髪師」の登場人物が出てきた。それがわたしにはどうにも不可解で、はて、どの役のことだろうとしばし考え込んでしまった。

それをきっかけにしてそれ以後の会話にはリアリティが感じられなくなり、面白みの半分が消え失せてしまった。残ったのは肉付きを失った筋の展開だけで、当初に感じた面白みはもろくも崩れ去った。難しいものである。

ただ、最後にヒロインが死んでしまうあたりの描写はなかなか読ませる。そして最後にはヒーローが1人残ってしまい、トレンチコートの襟を立てながら冬の歩道を1人歩み去るという情景が浮かんでくるような、おきまりの設定と言えなくもない。1986年下半期の直木賞作品だそうだ。
(2006年12月10日読了)