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2006年12月19日

背いて故郷 / 志水辰夫著(新潮文庫)

image わたしにとっては初対面の作家。ちょっと期待感に胸が膨らむ。1985年の推理作家協会賞をとった作品。全体の構成がけっこう緻密で、結末の付け方もなるほどなと納得。面白かった。

漁船を装った情報収集艦(スパイ船)という舞台から物語が展開していく。そこに登場する人物1人1人の描写がとても巧いと感じた。主人公の同僚達でも凶暴な敵役でも登場する男達の描き方の底には暖かいものが感じられて救いがあるのが嬉しい。また、女性の描き方も登場人物の年代によって変化のある描写がなされていて、人間の奥行きを感じさせる。

筋だけを追ってみれば、救いのないような暗い物語なのだけれど、どこかに明るさを感じることができるのは人間の描き方に愛情が籠もっているからかな。最後の数頁になって文体が突如として詩人らしきものに急変したのには少し面食らったがこれがこの作家のウリのようだ。後書きを読むとファンの方もけっこう多いらしい。
(2006年12月18日読了)