« 二日目に疲れが出た? | Main | 典型的な冬の天気 »

2007年11月20日

短夜(みじかよ)/ 高橋 治著(新潮文庫)

image 先回に続いてまた高橋 治氏の本。短夜(みじかよ)という文庫本。これも先回のさまよう霧の恋歌と一緒に故郷の Book Off で購入したもの。今となってはもっとこの作家の本を探して買ってくるのだったと残念に思っている。今回も確かな手応えがあって、読んだあとにはしっとりとした満足感があった。

主人公の 氏家蔦代 はまだ若い女性ながら確かな目を持った古美術商。この女性を巡って3人の恋人が順に登場してくるが、二人目までは情を交わしたあと突然不慮の事故にあって死亡するという運命を辿る。

古美術商としての彼女を支える人物として陶芸作家(加藤唐九朗がモデルだとか)、そして恐いほどの目利きを持った収集家が登場するのだが、この2人との微笑ましいやりとり、枯れた会話が読んでいてとても面白い。そして物語の途中で薄々感じたように、この2人の老人が彼女の心の水先案内人のような役割を果たすわけなのだ。

かなりしたたかな商人としての眼を持った主人公が、情熱の一夜を過ごしたあとには必ず偽物をつかんでしまうという設定は、古美術を扱うというテーマゆえに時として沈潜してしまいがちなこの小説の中でぽっと暖かい光を感じさせる描写である。相手の突然の死という暗い出来事をその光がやわらげるという効果も心憎い。

彼女にとって三人目の男性であった森園が突然外国から帰ってきて、彼女の目の前に現れる美しい場面でこの本は終わる。彼女はその直前に、今度ばかりは自分の意思でつかんだ偽物の茶碗を粉々に打ち砕いて自分の心の寂しい奥底を覗いていた瞬間だったのである。この幕の引き方は素敵だ。
姿の良い日本酒の徳利が柄にもなく欲しくなった。(^_^)
(2007年11月18日読了)