« 完全休養日 | Main | La Bohèmeの一回目 »

2007年12月02日

二重葉脈 / 松本清張著(光文社・カッパ・ノベルス)

本当に久しぶりの「松本清張」ものである。2年ほど前にミュンヘンの日本食品店の片隅に「無料で差し上げます」と投げ出されていたのを拾ってきた。表紙が失われているのがちと残念。

実はこの本、今年の夏にドイツと日本を往復しているのである。飛行機の中で読もうと鞄の中に入れたのだが、結局一ヶ月の日本旅行の間にもページを開くことはなかった。(^_^;) それがつい先ごろTwitter 仲間が「点と線」を見て面白かったとつぶやいていたので、同じ作家、同じ作風のこの推理小説を読んでみる気になった。わたしの記憶では二十歳の頃に一度読んでいる。あの頃は松本清張氏の推理小説が斬新で読みごたえがあったので次から次へと読み漁っていた。「点と線」「眼の壁」「ゼロの焦点」等々、彼の推理小説はその頃にほとんど読んでいると思う。

今度、読み返してみても感じるのだが、彼の推理小説は良くいえば読みごたえ充分、悪くいえば重い。40年ほど前に読んだものだから、あらすじや登場人物などはほとんど忘れていたが、初めの数ページで「アッ、犯人はこの女性だ!」というのを思いだしてしまった。うずもれた記憶というのは恐ろしい。(^_^;)

それでもこの分厚い本を最後まで読み通してしまったのはやはり面白かったから。ところどころに描写されているその頃の社会状況が、今となってみると懐かしい。たとえば340ページに出てくる次の文章。

神野は寝床をはなれて大急ぎで着替え、玄関に出ると、交番巡査の桜井が立っていた。
「お早うございます。いま、本庁の捜査一課の河合係長から電話があって、すぐに本庁においでになるようにとのことでした。河合係長もそれまでに登庁されるということです」
「わかりました。どうもご苦労さん」
桜井巡査は挙手をして帰っていった。神野の家には電話がなかったので、緊急の連絡はいつも近くの交番から取ってくれていた。

この頃(昭和40年頃)には現職の刑事の自宅にも電話があるところは少なかったのだ。携帯電話全盛の今を思うとまさに隔世の感がある。こんな些細なことも読書が与えてくれるひとつの楽しみである。(^_^)