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2008年10月25日

時効成立《全完結》/ 清水一行著(徳間文庫)

image これもJapan Club からお借りしてきた本。1968年(昭和43年)12月10日に発生し,ついに犯人が分からないまま時効が成立した『三億円事件』をテーマにした小説。この文庫本のカバーを見て奇妙な懐かしさを感じた。

『三億円事件』はわたしにとっても思い出深い事件だったのである。というのはわたし自身が警察の取り調べを受けた一人だったから。もっとも、警察において被疑者とされた者の数は十数万人に及んだそうではあるが。Wikipedia によると、高田純次や布施明もその中の一人だったらしい

この事件の起きた年,わたしは21歳だった。高専の工業化学科を卒業してある会社に就職はしたものの,歌へのあこがれが断ち切れずに退職し東京へ出てきたばかりの時である。その時住んでいたのは東村山市(とは言っても西武新宿線小平駅からほど近いところ)。事件のしばらく前にその下宿からちょっとばかり離れた小平市仲町にあるアパートに引っ越していた。ある日の夕方,そこへ二人の刑事がわたしを尋ねてきたのである。

実は刑事に訪問されても,わたしはあまり驚かなかった。いつかは来るだろうという予感があったのである。というのは,事件後にモンタージュ画像が発表された時に自分でも『あっ,俺だ!』と思った程よく似ていたから。(笑)  しかしこのモンタージュ写真はどうもそれほど正確なものではなかったらしいというのはあとで知った。刑事にアパートの部屋に上がってもらっていろいろと訊かれたのだけれど,話をしているうちに彼達がわたしを尋ねてきた理由を知ることが出来た。それは以下のようなものだった。

1.事件当時、三多摩地方に住んでいた若い男。
2.定職が無かった。
3.下宿を出る時に新しい住所を大家に知らせなかった。
4.その大家が『あの人はしょっちゅう府中市に行ってました』と証言した。
5.下宿近くの本屋(村野書店といったかな)でときどき『電波科学』という雑誌を買っていた。
6.モンタージュ写真によく似ている。

1.についてはその前に東京に出てきたばかりの頃,短期間厄介になっていた家が国分寺にあって,下宿を探す時にはその近くを探したのである。
2.については数年は浪人生活を覚悟していたから,アルバイトをして繋いでいた時期である。
3.についてはその時の意地悪な大家の奥さんとそりが合わなかったから,わざと教えなかったまで。
4.についてはその当時わたしの姉の一人が結婚して府中市の晴見町団地に住んでいたのである。溜まった洗濯物を持っていったり,ときどきは栄養補給をさせてもらっていたからかなりの頻度で通っていた。その大家の奥さんは「そういえばあの人はフラッと来て行く先も告げずに突然フラッと出て行きました。府中近辺の地理には随分詳しいようでしたよ」と刑事に教えたらしい。
5.については発煙筒に使われていた紙が「電波科学』という雑誌だったことから三多摩地方の書店をしらみつぶしに調べたらしい。

刑事二人と話していた時には,実はやはりドキドキしていた。(笑) その中でも当日のアリバイを聞かれた時には実に嫌な気分だったことを覚えている。事件当日が火曜日だったことはよく覚えている。というのはその日急に必要な楽譜があって渋谷の道玄坂にあるヤマハに向かっていたのだが,ヤマハの店は火曜日が定休日だということを忘れていて無駄足になってしまった。つまり,その日のアリバイは無かったのである。(^_^;)

もちろんわたしに断ってだったが、わたしの本棚に並んでいた本も若い方の刑事がしっかり見ていったし,そのほかにも刑事達が帰ってから『あぁ,うまいことしゃべらされたなぁ』と気がつくことが多かった。その点はやはりプロである。

そういうことがあって手に取ったこの本だが,中身はある種の愛欲小説であって,わたしの期待していたものとはまったく違ったものだった。まあ,それはそれで面白かったのだが。(笑)

2008年10月22日読了