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2008年10月26日

青が散る / 宮本 輝著(文春文庫)

image 風邪を引いている時にはやはりスカッとして後味の良い本を読みたいと思う。この本を借りた時には風邪を引いていなかったのだが,これならちょうど良いかなと思って読み始めた。読後感は予想していたものとはちょっと違ってしまったが。

この本はずいぶん昔に読んだことがあって,今回は二度目。『青が散る』という題名と青春小説であることだけは記憶にあったが内容などはすっかり忘れていた。青春小説を構成する幾本かの柱である『恋愛』『貧しさ』『将来への不安』『友情』などがしっかりと入っている小説だが、今回一番面白かったのはテニス・マッチにおける主人公の心理描写だった。

もうすっかり足を洗ってしまったが,5年ほど前まで約30年間テニスをやってきたわたしにはそのどれもが『ウン、ウン』と頷けるものだった。わたしも『勝てない』テニスプレーヤーの一人だったのだ。日本にいた時にやっていたテニスは本当にお遊び以外の何ものでもなかったけれど,ドイツに来てテニス・クラブに所属するようになってそれを痛いほど知らされた。

日本にいた時にはテニスコートの数に対するプレーヤーの数が多すぎたこともあってほとんどダブルスだったし、ナアナアの雰囲気であった。ドイツに来るとそれは逆転する。シングルスがあくまでも主体であり,アマチュアであってもドイツのテニスプレーヤー達は『勝つ』ことを最優先に置いている。おじさんプレーヤー達はフォームなど糞くらえで,とにかく勝ちにくる。勝つと嬉しがり負けると大いに悔しがる。わたしは最初それを醜いと感じたが,わたしが間違っていることにじきに気がついた。

わたしも徐々にそれに慣れていったが,これがどうしても勝てない。集中力と根気が不足しているのだ。アマチュアの場合は三セット・マッチだがわたしは始まる前から『三セットは長いなぁ』と思ってしまうんだから勝てるわけが無い。(汗) その頃のテニス仲間には『お前は勝つことに対する恐怖感があるんじゃないか』とまで言われる始末。口惜しい!これは実に口惜しい!

今,思い出せる数少ない勝った試合は、やはり闘争本能がメラメラと燃えた時だった。一つの例だが,近所にわたしより2歳若い弁護士がいて,週末はテニスに汗を流していてかなりの自信を持った男だった。家族ぐるみでの付き合いもあったから彼の性格は熟知していて,とにかく負けず嫌い。負けた時でも自分の力不足を顧みることはせずに,何かしらの言い訳をする男だったから,彼には負けるわけにいかなかった。彼に負けたら死ぬまでなんか言われそうな気がしたのだ。(笑)

この時の試合内容はまったく憶えていないけれど,お互いのレベルは互角だったからとにかく勝つことに集中して試合に没頭した。そして勝利! テニスに限らず,試合となったら絶対に勝たなくてはいけないということを再確認したマッチだった。

また,読後感以外のことを長々と書いてしまった。(汗) この本を読んだあとは爽快感よりは『切ないなぁ』という思いが強かった。青春時代というのは今にして思えば楽しかったことも数多く思い出すけれど,『あの時代に戻りたくはない』という人が多いということも頷けるのである。

2008年10月24日読了