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2009年11月06日

「ドン・ジョヴァンニ」新演出を観て

一昨日、4日に切符が手に入ったので新演出の「ドン・ジョヴァンニ」を観に行ってきた。 Premiere は10月31にあり、今夜は二回目の公演。久しぶりに観客席に座ってのオペラ鑑賞となった。

今回の「ドン・ジョヴァンニ」は演出・舞台装置に関わるものではあったが、伝わってくる噂によると余り評判が良くない。それでもこの目で見るまでは先入観を持たないようにしようと務めた。

座ったのは平戸間 (Parkett) の5列目だが真ん中ではなく一番右端。音を聴くには理想的な場所ではない。序曲が始まるとすぐに幕が開き、舞台中央には全裸の老人が立っている。両手がパーキンソン病を患っているかのように小刻みに震えている。どうやらこれがドン・ジョヴァンニのなれの果てであると言っているようだ。でも、どうして全裸である必要があるのだろう。

舞台はコンテナのようなものが舞台全面を支配していて、二段になっているものもあり、これら一つ一つがオペラの場になっている。全体が廻り舞台にもなっているから場面転換のロス時間というものはない。しかし、日記の方にも書いたのだが、このオペラはそれにもかかわらず長い。

音楽面はソリスト達のそれぞれが立派にその役をこなしていて、アンサンブル・オペラとしては高水準である。一人だけに言及すると、ドン・ジョヴァンニを歌った Mariusz Kwiecien は声にドン・ジョヴァンニが持っていなくてはならない品がある。ピアニッシモの美しさも大変なもので、観客席からは度々ブラボーが飛んだ。欲を言えば、もう少し背丈があったなら、見た目も素晴らしい役になっただろうに。

ケント・ナガノ氏の指揮するオーケストラは、わたしの中に刻み込まれている「ドン・ジョヴァンニ」のテンポよりかなり速めだった。ある曲などは歌手が必死でそのテンポに食らいついている、という感があった。だから「このぶんではずいぶん早く終了するかな」と思っていたが、終わってみれば普通の演奏時間とそれほど変わらない。とすると速いと思わされたのはケント・ナガノ氏の音楽の質だったのだろう。

演出面では、やたらとセックスを暗示した場面が多いのに参ってしまった。それが嫌いだというのではないのだが、美しくないものは嫌だ。男性ソリスト陣のそれぞれが、それぞれの場面でがズボンを下ろす演出が数カ所あるのだが、見ていてなんだかザラザラした気分になってしまった。

オペラが終了してからブリギッテの意見も聞いてみたのだけれど、彼女にはわたしがネガティブに受け取ったところも、気にならないようだった。「だって、モーツァルト自身が割とハッチャカメッチャカな男だったのでしょう? 演出家もそこを意識していたのだと思うし、セックスめいた場面もちっとも気にならなかったわ」と言う。

そして、「現代のオペラ歌手も大変ね。今日の男性陣は裸になっても、みんな均整の取れたいい身体をしていたわ、まあ、そういう歌手を集めたのでしょうけれど。」とも言っていた。オペラもいろんな見方があって良い。(^_^;)

最初の計画では2011年にこのオペラも日本で上演されるということだったのだが、どうやらその案はボツになり、替わりに Edita Gruberova 主演の Roberto Devereux を持って行くことになるという噂である。営業優先を考える招聘元の要求なのだろうが、いろいろと考えさせられる。