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2009年12月15日

La Bohème (パリ・シャンゼリゼ劇場)

今回のLa Bohèmeはパリのシャンゼリゼ劇場での公演。

シャンゼリゼ劇場というのは演奏する側にとってあまり好ましい音響でないと言うことは Verdiano さんからの情報と、合唱指揮者の説明で知っていた。しかし、知ったからと言ってそれに対してどう出来るものでもない。(^_^;) 合唱の一員として歌っている限りにおいてはそれは感じなかった。

ソリスト陣はそれぞれに堅調な出来だったけれど、やはりミミを歌った Anja Harteros が抜きんでて素晴らしかった。音楽の作りも歌のスタイルもそして声自体もそろそろ彼女のピークを迎えるのではないかという気がする。ある種の風格さえも感じさせてくれた。ムゼッタを歌った Elena Tsallagova もなかなか聴かせてくれた。素敵な聴かせどころもあって、この役はとっても得な役だと思うのだが、深紅のドレスに身を包んだオペラ歌手らしくない細身の姿は演奏会形式であっても観客を楽しませたのではないだろうか。(^_^)

男性ソリスト陣も好調。わたし個人としてはマルチェロ役の Levente Molnar が役作りも見事に、確かな様式感を見せてくれた。かなりテノールに近い声で、わたし個人の趣味としてはもう少し暗めの声が好きなのだが、立派なものだった。それとコッリーネ役の Christian van Horn がわたし好みの声で好演。この若いバスはチャンスさえ掴めば世界に羽ばたく歌手になるはず。

最後にテノールの Vittorio Grigolo である。熱心に追いかけられているヴィットリオ・グリゴーロ(テノール)さんには申し訳ないのだけれど、彼のこれからにちょっと危惧を感じてしまった。それがわたし個人の杞憂であればそれに越したことはない。

昨夜も決めるツボはピシリと決めて観客の反応も素晴らしく、有名な第一幕のアリアも最高音を見事に響かせて盛んなブラボーを取っていたほどである。だが、わたしが聴いてきたこれまでの名歌手達、パバロッティ、ドミンゴ、カレーラス、クラウス、などと較べると明らかに違う点がある。それは彼の声が一本の芯にまとまらずに拡散してしまうこと。この点が耳についてしまって、わたしは彼の歌に集中出来なかった。これだけの逸材だから、良い指導者に恵まれたなら歌唱そのもので万人を感動させるテノール歌手になると思うのだが。今のまま歌い続けたら彼の声を壊してしまうのではないかという危険性すら感じてしまった。

指揮者の Asher Fisch はかなり達者に、そして堅実にオーケストラ、歌手をまとめていたと思う。演奏会形式ではあるがオーケストラの前部の舞台(彼にとっては背後である)を端から端まで動き回るソリスト達を追いかけてキューを与えるのに時折苦労していたのはご愛敬であった。観客にとってもあんなに動き回られたら歌を聴くのに集中力が散漫にならないのだろうかと、わたしなどは心配してしまった。

それと、われわれ合唱団が自分たちで気がつかなかった習性を発見したことも面白かった。ミュンヘンでの最初のオケ合わせの時に指揮者が指摘したことなのだが、指揮者の棒よりも数コンマ分の一だけ合唱が早く出てしまうのだった。舞台で歌い演じているときには、それが観客席に届くときにうまくタイミングが合っているのだろうが、今回のように演奏会形式となるとそれが裏目に出るのだった。われわれは良くも悪くもオペラ合唱団なのだということを再確認した次第。昨夜はその点はちゃんと修正出来ていたと思う。(^_^;)

Asher Fisch, direction

Anja Harteros, Mimi
Vittorio Grigolo, Rodolfo
Elena Tsallagova, Musetta
Levente Molnar, Marcello
Christian Rieger, Schaunard
Christian van Horn, Colline
Alfred Kuhn, Benoît
Rüdiger Trebes, Alcindoro
John Chest, un douanier
ll Hong, un sergent des douanes
Nam Won Huh, Parpignol

Orchestre de la Bayerische Staatsoper
Choeur de la Bayerische Staatsoper, direction Andrés Máspero
Maîtrise de Radio France, direction Sofi Jeannin

Théatre des Champs-Elysées から2009年12月16日に引用