サントリーホールでの第九(1回目)

土曜日・曇りときどき小雨 / 最高気温10度

6時半起床。危惧していたとおりに午前1時頃に眼が覚めてしまいそれからなかなか寝付けなかった。ジェット・ラグである。午前4時頃までは憶えているからきっとそのあとに寝付いたのだろう。6時半に目覚ましが鳴った時には深い眠りの底にいた。目覚まし時計をセットしておいて正解。(^_^;)

午前7時に朝食会場の「カトレア」に行ってみると、やはり合唱団のメンバーたちも今日は早起きしたらしくほとんどの顔ぶれが揃っている。9時半のバス出発なので朝食のあとは部屋で少しゆっくりとする時間があった。カメラの入るプローベということで、燕尾服を身につけてバスに乗り、ほぼ時間通りにサントリー・ホールに到着。コンサート専門の合唱団とオペラ劇場の合唱団のやり方の違いが新鮮である。

それから合唱指揮者とピアノによるちょっとした練習。11月12日にミュンヘンでオーケストラ合わせをした時の駄目出しである。それからゲネプロが始まり、終わったのは13時少し前。ホテルまでまたバスで送ってもらったので、いったん部屋に戻り平服に着替えてから昼食に外へ出る。昨日食べたカツカレー・ライスの重さが意識に残っていて、今日は蕎麦を選んだ。このホテルの近辺は蕎麦屋が多くてこんな時には選り取り見取りで楽しい。

空腹が満たされたところでホテルに戻りベッドに潜り込む。1時間ほどグッスリと眠り昨夜のジェット・ラグによる睡眠不足を取り戻した感じ。夕方は6時半出発のバスで再びサントリー・ホールへ。もちろんホテルの自室で燕尾服に着替えてである。

今夜のプログラムは休憩前がベートーベンの交響曲8番,そしてそのあとが交響曲第9番だった。ドイツのオーケストラに付き合ってきていつも思うことが今回も実証された。プローベ、ゲネラルプローベの時には多々、?と思うところがあって「今回の演奏旅行はすごく評判が良いらしいけれど本当?これで本番は大丈夫なの?」と心配になった。

しかし、本番の舞台はまるで別物。指揮者のタクトが振り下ろされた途端にスイッチが入ったオーケストラの連中の気合いがもの凄い。演奏者たちの上半身がはげしく動き始めて森の木がザワザワと揺れる感じで、それに輪をかけるように指揮者のヤンソンスも顔面が紅潮するほどの集中力。当然、出てくる音楽も鳥肌が立つほど。わたしは第三楽章の美しさに涙をこらえていた。

第4楽章のソロを勤めた独唱者たちも素晴らしかった。Michael Volle が安定感のある歌唱で口火を切り、テノールの Michael Schade もその輝かしい声を聞かせる。そしてソプラノの Christine Karg もソプラノの難所をそれと感じさせないほど鮮やかに歌いきった。アルトの 藤村美穂子さんもしっかりと歌っていたがベートーベンはこの曲でアルトに見せ場を作ってあげなかった。(^_^;)

自分で歌っているからその判定はむずかしいのだが、合唱も今夜が一番良い出来だったと思う。強いていえばソプラノの音色が高音のフォルテの部分でメタリックに過ぎた面があるかもしれない。この辺はオペラ劇場の合唱団の方に余裕が感じられる。

19時から始まった今夜の演奏会は21時半頃に終了したのだが、観客が立ち去るのを待ってわれわれは再び舞台へ呼び戻された。今夜の演奏で指揮者と録音担当者の気に入らなかった部分の録りなおしである。きっと完璧な DVD 作成のためのものなのだろうが,わたしには初めての経験だった。

正直に言うとわたし自身はその時点で疲れ切り、既に神経が集中しなくなっていたのだが,オーケストラ奏者、そしてわたしのまわりの放送合唱団の連中はそれを当然のこととしてやっている。ここには瞬間芸術を柱とする劇場音楽とは全く違う世界があった。

全てが終わってバスに乗りホテルに到着したのは23時頃。小腹が空いていたが、着替えてまた外に出る気力もなく、セブン・イレブンで「おでん」を購入しホテルの部屋で食べる。これがおいしくてコンビニのおでんの味も馬鹿には出来ないと思った