ふとした臭いに出会ったとき、それを基点として一瞬にして何十年も前の風景が蘇ることは良く聞く話。しかし、それが音にもあるということを数日前に経験した。
You Tube で、ある日本映画を観ていたときに登場人物がアルミサッシの窓を開ける場面があった。アルミサッシの窓についているベアリング特有の「カラカラ」という音を聞いたとき、わたしの脳裏に鮮やかに浮かび上がった景色があった。
それはまだ芸大に入学する前の浪人中だったか、すでに芸大で学んでいた頃だったかは定かで無いが、その頃に住んでいた西武新宿線・小平駅から10分ほど歩いたところにある8畳一間のアパートから眺めた光景だった。
夏のまだ充分に暑い夕方にそのアパートに帰ってきてアルミサッシの窓を開け、留守中に溜まっていた部屋の熱気を逃がしたときの光景である。
その当時その辺はまだ畑が点々と存在していた地域で、どこかもの悲しい、そして乾いた風景だった。自分の将来が霧に閉ざされたように不透明で確たる希望も持てない、そんな時代だったことを思い出した。
アルミサッシの「カラカラ」という音はわたしにとって青春が持つ不安と、もの悲しさを感じさせる音なのである。