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2008年07月06日

夜を急ぐ者よ / 佐々木 譲著(集英社文庫)

image しばらくぶりに面白い本に当たった。この作家の名前はよく覚えていて、確か過去にも数冊読んでいる筈と思い以前のブログを検索してみた。それは勇士は還らずベルリン飛行指令の二冊だった。改めて読み返してみる。素敵なコメントも付いていて、こんな時はブログを続けてきて良かったと思う。(^_^)

読む前から、多分期待は裏切られないだろうと思っていたが、その通りになった。こういうのをハード・ボイルドというのだろうが、引き込まれるようにして読了。この本で一番気に入ったのはやはり主人公二人の描写とその会話。いちいちツボを押さえてくる。それと次の部分。

ふたりは立ち上がった。店の中にまたジョン・レノンが流れ出したところだった。泰三はいつになく強く、神経を逆なでされる気分だった。
レジ・カウンターの前まで来ると、泰三はとうとうこらえきれずに、抗議するような調子で訪ねた。
「きょうははどうしてどこでもビートルズばかりなんだろう。イマジンなんて、三十分の間に二回かかった」
ウエィターは答えた
「ご存知ないんですか? ジョン・レノンが死んだんです。ニューヨークで、撃たれて」
「さ、行くぞ」
男が出口から声を掛けた。
(p.152)

「わたし、久米島から帰ったら、ホテルへ伺ってもいいかしら。那覇ヒルサイド・ホテルにぜひ一泊してみたいなと思ってるものですから。」
「大歓迎ですよ」義宣は頬を輝かせて言った。「なんなら、今ちょっと行ってみましょうか」
その午後、店のスピーカーはずっとジョン・レノンを流し続けていた。彼がその日ニューヨークで撃たれたことを、順子はあとになって知った。
(p.214)

主人公のふたりがこの瞬間に場所と相手は異なっても同じ時間を共有していたということを、このような手法で突きつけられると、そのうまさにわたしはもう唸ってしまう。ましてやそのキー・ワードがジョン・レノンだなんて。この世代に属する者としては脱帽である。こういう小説読後感のお約束としてストーリーの展開は差し控える。